『ふたつのしるし』 宮下 奈都著

勉強には全く興味を示さず、人の評価に動じないハル (温之)。

勉強はできるものの、個性を押し殺して生きていたハル (遙名)。


彼は落ちこぼれ、高校入学したものの通学せず、自室で地図ばかり見ていた。結果、退学。


彼女は優等生で一流大学に進学。しかし、期待していたものは大学になかった。されど、一流企業に就職。


できそこないの中卒男性と一流企業の優秀な女性。赤の他人として互いを意識せず擦れ違うことはあっても、お互いの人生が交じり合うことは、普通ありえない。




最後の章は、2021年のお話。





「どうしてお父さんと結婚しようと思ったんですか」

インタビューするみたいに、キッチンにいるお母さんにマイクを差し出す真似をする。

「勘ですね」

「えっ」

思わず素で聞き返してしまった。いけない、インタビューだった。

「人生には意外と勘が大事です」

お母さんは両手を腰に当てて、大きくうなずいてから続けた。

「たとえば一千万人のデータを見て、分析して、厳選して、いちばんいいものを選ぶというやり方は、場合によっては重要だろうけど、場合によっては笑止千万」



「勘を磨くしかないのよ」

「どうやったら磨けるの」

何度か瞬きをして、お母さんはおもむろに口を開いた。

「たくさんぶつかって、だんだんわかるようになるんだと思う、たぶん」






人それぞれに、書ききれない程の物語があり、多くは自分が傷付くことで、その一つが終わる。

人生が、そのような小さな物語の連続ならば耐え切れない。


そこに、そっと手を差し伸べてくれる人がいてくれたら。その眼差し、手の温もりを感じることができたなら。


人生が、人との出会いならば、どんな苦しいことも乗り越えていけそうな感じがする。たくさんぶつかることにも、きっと意味がある。