『月の満ち欠け』 佐藤 正午 著


この小説、とても面白い。

途中で飽きることなく、半日で読了しました。

第157回、直木賞受賞作ですものね。


作中に2度、ある書名がでてきます。

 前世を

 記憶する

 子どもたち



名前は瑠璃、あるいは、るり。またの名を希美。


 母親の隣で娘が、うん、そのとおり、と言わんばかりに顎の先を二度、喉もとに引きつけてみせる。小さな女の子だ。ランドセルを背負ってちゃんと学校まで歩けるのか?そう心配したくなるほど小柄な小学生だ。

(略)

「ちゃんとした紹介もまだなのに、申し訳ありません。この子、るりです、娘の」

(略)

「るり、小山内さんにご挨拶を」と母親がせかす。

「こんにちは」ませた小学生が言った。「今日はお会いできて嬉しいです、小山内さん」

 小山内堅、それが彼のフルネームである。娘の形良く角度をつけて組まれた両脚、ワンピースの裾から覗いたふたつの膝小僧をテーブル越しに見下ろして、彼は黙っていた。

「来てくれてありがとう。ほんとに、心から嬉しいです、あたしとしては」

 そう言ったあと脚を組み替えたので、小山内は視線を泳がせた。

 相手がくすくす笑い始めた。


 小山内堅は結婚し、娘もいる立派な大人。かたや、くすくす笑い始めたのは7歳の小学生。名前は、るり。実は、小山内の娘の名前も瑠璃。小山内瑠璃。残念なことに小山内は、事故で妻と娘を亡くしていました。


瑠璃も希美も7歳の時に高熱を出します。原因不明。自然に解熱したのですが、そこから新たな人格が現れます。


大人の瑠璃が不本意ながら亡くなってしまい、その強い思いを後世の子供(瑠璃たち)が引き継いだ。だから、前世を記憶する子どもたち。ということ?


その新たな人格が、ある一人の男性を求めます。

大人の瑠璃が、心から愛した男性を。


大人の瑠璃とその男性との会話。


「神様がね、この世に誕生した最初の男女に、二種類の死に方を選ばせたの。ひとつは樹木のように、死んで種子を残す、自分は死んでも、子孫を残す道。もうひとつは、月のように、死んでも何回も生まれ変わる道。そういう伝説がある。死の起源をめぐる有名な伝説。知らない?」

「誰に教わったんです」

「何かの本に書いてあるって、いつか見た映画の中で、誰かが喋ってた。人間の祖先は、樹木のような死を選び取ってしまったんだね。でも、もしあたしに選択権があるなら、月のように死ぬほうを選ぶよ」

「月が満ちて欠けるように」

「そう。月の満ち欠けのように、生と死を繰り返す。そして未練のあるアキヒコくんの前に現れる」




最後まで仕掛けがあり、読むものを惹きつけます。


でもね、何故?というのが、どうしても残りますよね。

本当に生と死を繰り返せたのだとすれば、大人ではない瑠璃は、一体、誰?

小山内瑠璃は事故死している。大人の瑠璃と無関係であれば、事故死しなかったの?

そもそも、どれほど愛せば、生と死を繰り返すことが可能なの?

挙げればキリがありません。


それでも、最後まで一気に読ませるのは、さすがです。



それにしても、小山内堅さん。

奥さんは瑠璃という娘さんを産んでいるのだから、樹木の方。月の満ち欠けにはなりません。踊らされて、勘違いしないように。